『 アメリカン・ビューティー 』

American Beauty  (1999) U.S.A. 2hr. 1min.



死んだ男が、自分の人世がいかに崩壊していったかを語りはじめる。

男(ケヴィン・スペイシー)の名前はレスター。普通の出版会社に勤務する普通で冴えない中年男。不動産ブローカーとして成功している妻キャロリン(アネット・ベニング)、ティーン・エイジャーの娘ジェーン(Thora Birch)と郊外のこぎれいな一軒家で暮らしていた。 庭には妻が丹精している薔薇が咲く。傍目にはなにひとつ不自由のない絵に描いたような幸せな中流生活に見えた。

しかし、実際は家族3人の求めるビューティーに違いが出て来てギクシャクし始めていたのだ。妻のビューティーは仕事で成功し、キレイな家でキレイな究極の中流生活をする事。夫のビューティーは社会に縛られないマテリアリズムからも開放された自由な生活。

娘のガールフレンド(Mena Suvari)に一目ぼれしてしまう父親の性的妄想、妄想が嵩じた彼は若い女の子につりあう鍛えたボディーをつくろうとトレーニング・セットを買って来て突然カラダ作りに励み出す、 仕事のストレスから同業者と不倫関係になる妻、こういったエピソードが面白おかしく語られていく。 でも、ほんとうは、可笑しいことではない。すべては人世への不満が起因となっているのだから。

始めは、どこの家庭にでもありそうな価値観の違いが、幾つかの偶然の重なりで、徐々に深い亀裂となっていく・・・

90年代の『 アイス・ストーム 』とも言われている様だが、この手の映画は好き嫌いが分かれると思うのだけど、 それがメガヒットしたということで、そういった意味で社会勉強になった。家庭崩壊の映画だから、家庭内での言い争いのシーンが何回かあり、そういった好戦的な環境を好まないわたしにはイマイチだった。

夫婦の亀裂が決定的になった事を良く表現で印象的だったのが以下のシーン。
だんだん夫婦の関係が冷えて来ている2人が、子供が学校からまだ帰って来ていない居間で話し合っていたところ、ちょっとした拍子にちょっぴりロマンティックな気分が二人に芽生える。 カウチに座る妻を抱擁しようと近づく夫。その時妻は夫の手に持っていた飲み物が傾きこぼれそうになっていたのを目にする。
   「このカウチは何千ドルもしたイタリアンデザインなのよ。気をつけてっ!」
自由を求めた夫、豊かな物質に囲まれた安定した生活を求めた妻、二人の価値観が決定的に違うものになった瞬間だ。この映画の中で一番良く出来ていると思った。

タイトルの「アメリカンビューティー」は薔薇の種類名で主人公の妻が庭で育ているものとの事。(05/13/00)

第72回アカデミー賞(Oscar 2000)で、作品賞、監督賞、主演男優賞など合計5部門の受賞作品。

dir: Sam Mendes

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